ボランティア・スピリッツ賞(アワード)

ジブラルタ生命・プルデンシャル生命・PGF生命ほか主催/文部科学省後援
PRUDENTIAL SPIRIT OF COMMUNITY(通称:SOC)
ボランティア・スピリット賞(アワード)

Dream Bridge 〜希望のかけ橋〜

迫田 茉之 サブリナ(さこだ まの)さん
(受賞時:大阪YMCA国際専門学校 1年生)
第19回ボランティア・スピリット賞 文部科学大臣賞受賞
米国ボランティア親善大使

映画「RARE(レア)」との出会い

映画「RARE」は、「ヘルマンスキー・パドラック症候群(HPS)」という非常に「レア(稀)」な疾患を抱えて生きる患者と家族、臨床試験に臨む医師の姿を描いたドキュメンタリーだ。
症状の改善や治癒への希望を臨床試験に託す患者たち。しかし参加条件の厳しさや時間など、さまざまな理由で臨床試験には簡単に参加することができない。そもそも臨床試験に行きつく治療法を開発することが難しいのだ。そんな状況の中、「娘そして、すべてのHPS患者のために」と、HPSを患う娘アシュレイの母親ドナが、治療法を探すために患者会を立ち上げて行っている活動や患者たちのリアル・ライフを描いている。

迫田茉之サブリナ(さこだ まの)さん
映画「RARE(レア)」の登場人物アシュレイと母親のドナ

迫田さんは中学3年の時、大学で働く母に同伴して参加した臨床研究・臨床試験に関わる学会「Association of Clinical Research Professionals(ACRP)」(開催地:米国  テキサス州サンアントニオ)で映画「RARE(レア)」と出会う。
「映画は全編英語で分からない単語もたくさんあって、専門的な医学のこともHPSのこともよく知らなかったんですけど、グイグイ引き込まれたんです。人と人との関わりや、HPS患者団体を取りまくエピソードの一つひとつから伝わってくるものがあって、全てひっくるめて人の持つ『善』を感じました」
映像には、臨床試験の検査のための長距離の通院、新しい薬の効果・副作用への不安など、身体的、精神的に多くの負担を強いられながら臨床試験に参加する患者の姿、懸命に臨床試験に臨む医師の姿が映し出される。
上映後、寄り添い手をつないで登場した映画の中心人物のアシュレイと母親のドナ。その姿に『愛の塊』のような崇高さを感じ、とめどなく涙があふれた。「この映画を観てほしい。同世代の人たちに観てほしい」。迫田さんの心が突き動かされた瞬間だった。
その想いは、会から帰国して一週間経過しても醒めることはなかった。
「ずっと母に『RARE』良かったよね。みんなに見せたいよねって言い続けていたんです。そしたら母が、『映画を製作したスタンフォード大学に翻訳させてくださいってお願いしてみたら?』って、背中を押してくれたんです。その後はすぐに行動を起こしていました」
「日本の中学3年生です。『RARE』を観て感動したので翻訳をしたいです」。迫田さんは、スタンフォード大学の総合窓口へとメール送る。

「フィルムメーカー(映画を製作した大学教授)を教えてあげるわ」。スタンフォード大学からの返信はすぐに届いた。そこからはトントン拍子。最初のメールからわずか一週間、迫田さんは映画の配給会社やアメリカのHPSの患者団体(アシュレイやドナ)とつながった。
「中学3年生と言うところに興味を持ってもらえたのか、みんな優しかったんです。映画のスクリプト(台本)も、すぐに届いて、『まさか!?』って、自分が一番びっくりしました。いざ、翻訳をすると言ったものの取りかかる準備はできていなかったんです」。活動のスタートを振り返って迫田さんは屈託なく笑う。

あなたは私のDream Maker

「スクリプトをもらったので、力を貸してください!」。迫田さんの想いに賛同して、惜しみなく協力をしてくれたのは、ARCP学会で一緒に「RARE」を観賞したACRP JAPANのメンバー(大学教授や製薬会社の社員など臨床医療に関わる専門家たち)だった。ここに「RARE」の翻訳チーム「Dream Bridge」が誕生する。
「映画の中に『あなたは、私のDream Maker。私の希望です』と患者さんが医師に伝えるシーンがあるんです。映画の中の臨床試験では薬の効果を証明できなくて、患者さんは治療法が見つからなかったことに失望したはずなんです。それでも自分のことより他のHPSの患者さんの未来を思っているんです。患者さんの想いの橋渡しができたらいいなって、翻訳チームを『Dream Bridge』と名付けました。尊敬し合える仲間。それが、『Dream Bridge』です」

映画「RARE」の日本語字幕版を完成させたい
プレジデント・サブリナが率いる「Dream Bridge」

全国に散らばるメンバー約30人は、意訳や表現にかかわる「ルールノート」に従い、担当パートの翻訳にあたった。それでも足りない部分は、東京と大阪をWEB会議で中継し何度もチェックしたという。迫田さんは、同じ年齢の人たちが観てもわかる翻訳になるよう気を配った。
”プレジデント・サブリナ“。若きリーダーへ親愛の情をこめて『Dream Bridge』のメンバーらは迫田さんをそう呼ぶ。
「作業は、ただただ楽しかったです。医学用語の翻訳は難しかったけど、専門家のみなさんが、いろいろとフォローしてくださったので、苦ではありませんでした」

一番辛かったのは、翻訳を字幕として画面に乗せていく作業だったと迫田さんはいう。
「ヘルマンスキー・パドラック症候群」という単語でさえも、0.01秒刻みで流れていく映像に合わせて文字を置くことは容易ではない。ひとりでパソコンに向き合い1コマ1コマ文字を落としていく。編集には約5カ月を費やした。

長期間にわたる作業の過程では、HPSに対する考え方や捉え方の違いに悩んだ時期もあった。
「自分が行動することで傷つく人がいることが辛かったです。でも自分はその人の気持ちの全てを分かることはできないし、分かると思いあがってもいけないと思うんです。少しでも歩み寄れたらという想いでいっぱいでした」
迫田さんは話し合いの場を持ち、お互いの全てを理解することができなくとも納得できる方法を探し続けた。
どうしてそこまで頑張れるのだろうか?投げ出したくなることはなかったのだろうか?愚問だが聞かずにはいられなかった。
「やめようと思ったことは、一度もないです」。その返事には、一片の曇りもなかった。
「あなたならやり遂げられる」と励ましてくれた「Dream Bridge」のメンバー、時には二人三脚で活動と向き合ってくれた母。たくさんの人たちの支えがあり決して一人ではなかったから、前に進むことができたと迫田さんはいう。

夢は自分でかなえるもの

出会いから約1年半後の2015年8月。ついに上映された日本語字幕版「RARE」。最初の上映は、看護学科のある高校で行われた。
「映画を観てくれた人が泣いているのを見た時、自分と同じ想いが共有できた。私が伝えたかったメッセージを受け止めてくれたんだって、嬉しかったです。『同じ世代の人がこのような活動をやっているっていうのがすごい』と声をかけてもらえて、ようやくここまで来られたと実感しました」
上映会では、同級生の協力を得ることもできた。「RARE」を同世代の人たちに観てほしい、知ってほしいという願いがひとつかなった。
また、2015年に神戸で開催された「第15回CRCと臨床試験のあり方を考える会議」の会場の片隅にスペースを設けて行った上映会では、2日間で延べ2,000人を超える人たちが画面に見入った。中には雑誌に掲載された迫田さんの記事を頼りに会場まで足を運んでくれた方もいたという。
「上映会自体は、まだ回数を多く実施できていないんです。これからはもっと力を入れていきたいですね。『RARE』を多くの人たちに伝えたいと思って始めた活動。そこを貫かなければ意味がないと思うので・・・ボランティア・スピリット賞で米国ボランティア親善大使として新たなチャンスをもらったので、ワシントンの舞台で世界の仲間にも伝えてきたいと思います!」
すでに20件を超える照会が入っているという迫田さん。「学生生活と活動との両立が難しいと思いますが、心ながら応援しています」。メールに添えられた励ましの言葉に応えられるよう、多くの会場での上映会を行い、できる限り会場へも直接出かけたいと意気込みを語ってくれた。

上映会では、多くの人々が画面に見入った

希望の芽吹き

2016年3月、ニューヨークで開催された「HPSネットワーク」の学会に参加した迫田さん。
「サブリナ、ここにいるみんなは沢山ハグするでしょ。みんな、家族だからだよ。君はもう僕たちの家族だ」「何かあったらいつでも私のところに連絡してきなさい」
迫田さんは、アシュレイとドナ親子をはじめ映画「RARE」に登場した人々からあたたかいハグで歓迎され、アメリカ国立衛生研究所(NIH)の臨床医師ガル氏(映画の中で「Dream Maker」と呼ばれていた医師)からは、「臨床試験について、日米で調印がなされたよ。君の貢献は大きかったんだよ。ありがとう」と、何ものにも代え難い激励を受ける。

敬愛する臨床医師のガル氏(Mr.Dream Maker)と共に
You make a world of difference

そして、「You make a world of difference」迫田さんは、この学会で一番の功績を称えられる賞(アワード)を授与される。
「活動をしている上で色々な試練はありましたが、今回、学会に参加して自分が一番喜んでほしいと思っていた人が、こんなにも喜んでくれているんだと知ることができて、とても嬉しく思いました。この学会に来るみなさんは、レアな疾患と共に生きていることを前向きにとらえ、笑顔でした。このような機会に恵まれ幸せだと思うとともに、人生はまるで魔法のようだと感じました」。3日間を振り返って迫田さんは語る。
“プレジデント・サブリナ”は、これからも多くの人々の「Dream Bridge」となるだろう。
彼女の行動力をもってすれば、日本語字幕版「RARE」が、私たちの街でも当たり前のように観られる日が来るのは、遠くないのかもしれない。そう思うと楽しみでならない。

■映画「RARE」上映会の依頼については、「Dream Bridge」事務局へ直接お問い合わせください。
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