ボランティア・スピリッツ賞(アワード)

ジブラルタ生命・プルデンシャル生命・PGF生命ほか主催/文部科学省後援
PRUDENTIAL SPIRIT OF COMMUNITY(通称:SOC)
ボランティア・スピリット賞(アワード)

地球温暖化に負けないトマトを作る

静岡県立富岳館高等学校 農業クラブ
第18回ボランティア・スピリット賞 SOC奨励賞受賞

県内のトマト農家が衰退してしまう

きっかけとなったのは身近な話題、地球温暖化現象だ。高温の影響で地元のトマトの産地は、トマトの収量が減少。圃場(ほじょう※)を静岡県外の高冷地に移転せざるを得ない状況にあるというニュースだった。
※圃場:作物を栽培する田畑
地域農業への貢献を目指して活動する農業クラブのメンバーらは、早速、校内のハウスでトマトを栽培し高温がトマトに及ぼす影響についての調査に乗り出した。
トマトの生育過程で『花芽の発育遅延』や『高温障害によるしり腐れ果』、『花の奇形』などの問題が発生することを確認する。「このまま地域のトマト栽培を衰退させてはいけない!」と、メンバーらは、『地域の農業の課題は、地域で農業を学ぶ高校生の手で守る』をスローガンに掲げて、取り組む決意をする。

静岡県立富岳館高等学校 農業クラブのみなさん
トマトに散布する養液を作っています

同じ頃、県内の牧草地のシバがリング状に繁り、そのあとにキノコが生える現象『フェアリーリング』が発生していることを知る。この現象はシバの病気によるものだとされてきたが、近年、キノコの菌糸が『植物成長調節物質(アザヒポキサンチン・AHX)』(以下、『AHX』)を生成し、シバを繁茂させている。『AHX』は環境ストレスに強い性質を植物に与えるとの研究成果が静岡大学の教授によって発表された。
そこでメンバーらは、「『AHX』が高温にも強いストレス耐性を植物に与えることが出来るとしたら、『AHX』を活用して温暖化に負けないトマトの生産ができるかもしれない」との仮説を立て検証実験を開始する。
結果、栽培実験で『AHX』を使用して栽培したトマトとそうでないトマトを比較したところ、『AHX』が高温に対するストレス耐性をトマトに与えることが判明する。
「この特性を活かせば、温暖化に強いトマトが安定的に生産できるようになり、収量の増加を見込める!」
メンバーは、新たな可能性を見出した。

新資材『AHXチップ』の開発

「僕たちの目的は、農家が使いやすい方法を提供してトマトの収量を増やすこと。基礎研究の結果を得ただけでは、実用的なアイデアとしては足りない。『AHX』と何かを組み合わせることでより使いやすい素材ができるんじゃないかって考えたんです」
そこで開発されたのが、『AHXチップ』だ。『AHXチップ』とは、『ペーパースラッジ(古紙をリサイクルする時にできる廃材)』を炭化させたチップに『AHX』の液体を浸透させて乾燥させたものだ。
『AHX』の媒体として使用する資材には、富士山の火山岩やヤシ殻など、さまざまな候補が挙がったが適したものが見つからず苦戦した。そんな時に『ペーパースラッジ』と出会い、転機となるアイデアがもたらされる。

ノートには実験の記録がびっしり!

「『ペーパースラッジ』は、原材料が紙なので土に還ります。炭化の際に危険物も取り除いているので、エコロジーな素材として農作物を栽培するのに適していました。この組み合わせで新しい資材を作れると確信しました」
「『AHXチップ』を使用する時は、土の量に対して25%の量を混ぜると良いという結果も出ています。条件が整わないと効果は見込めません。この比率も自分たちが、『AXHチップ』の混合比率を変えた土壌でトマトを栽培して、ベストな比率を導きだしました」
メンバーらの情熱と挑戦が、環境にやさしく植付け前の土壌に混合するだけで簡単に利用できる新資材『AHXチップ』を誕生させたのだ。

たくさんの農家に活用してほしい

今、メンバーらが最も力を入れているのは、『AHXチップ』のプロモーションだ。すでに導入を検討している農家もあるが、まだまだ知名度は低い。農業者向けの研究発表の場に積極的に出かけて効果を訴える。
「農家に使ってみたいと思ってもらえないと意味がないので、表現や図表を工夫して分かりやすくしています。発表後のアンケートに書かれた『ぜひ、利用してみたい』『高校生のチャレンジを応援するよ』というメッセージに励まされています」

『AHXチップ』をトマトの栽培に活用している農家へは、定期的に訪問し、成長や収量の変化について聞き取りを行う。
「『AHXチップ』を使用した土耕栽培では収量が伸びていますが、ポット栽培については、まだ工夫、改善の余地はあると思います。農家からいただくアドバイスは、すごく参考になります。小さい結果の積み重ねかもしれないけれど手ごたえは感じています」

トマトの実りのように

活動は植物の成長を見守ることと共にある。農作物を育てながら、毎日コツコツとデータを採取し分析する作業はつらくはないのだろうか?
「朝7時頃からハウスいっぱいの苗木の成長を1本1本測定します。暑い中で効果が見込めないといけないので・・・汗ダクになることもあります。続けられるかな?と思ったけど、手をかけた分だけ大きくなっていくから、今は楽しくてしかたないです」
「農業が好きで、将来は農業に関わる仕事がしたいって思っているので、つらいって思ったことはないです。新しいことに関われるって面白い」。
トマトの世話をしながらメンバーらは笑う。今後は、『AHXチップ』を利用した家庭用の栽培キットの開発や被災地で塩害を受けた土地の土壌改良にも取り組みたいという。
青かったトマトが赤く色づき実りを迎えるように、メンバーらの志は、大きな実を結ぶことだろう。

『AHXチップ』を配合した土壌で育てている自慢のトマト