ボランティア・スピリッツ賞(アワード)

ジブラルタ生命・プルデンシャル生命・PGF生命ほか主催/文部科学省後援
PRUDENTIAL SPIRIT OF COMMUNITY(通称:SOC)
ボランティア・スピリット賞(アワード)

ボランティア、それは「伝えること」

櫛部 紗永(くしべ さえ)さん
(受賞時:早稲田実業学校 高等部2年)
第18回ボランティア・スピリット賞 米国ボランティア親善大使

子どもたちのことを知りたい

櫛部さんが、子どもたちの貧困に目を向けるきっかけとなったのは、小学2年生の時の授業。ストリートチルドレンや戦争の話。 自分と同じ年頃の子どもたちの身に起こっていること、世界の出来事に驚き、関心を抱くようになる。
「先生は、世界には貧しくて今日一日を生きるのに必死で、ゴミ山に入っていく子どもたちがいるということを教えてくださるだけでなく、授業の終わりに『今日みなさんに伝えたことを家族に話してください』と語りかけてくださったんです。自然と家族に話すことが習慣になって、世界の子どもたちのことをもっと知りたい、多くの人に伝えたいと思うようになりました」

「伝えること」が、私のボランティア活動です
櫛部 紗永さん

机上では知り得ない世界がある

「子どもたちに会いにいきたい」。櫛部さんの想いは膨らみ、旅行会社が企画するボランティアツアーに参加する。
「最初に訪問したのは、カンボジアの孤児院。小さいころからやっている空手で子どもたちと交流をしました。『お姉さん』『お母さん』ってなついてくれて、言葉が通じなくてもこんなに仲良くなれる。国境は関係ないって思える経験でした。でも次に訪問したベトナムの病院では、枯れ葉剤の影響を受けた奇形児が鉄格子のドア越しにこちらを見ているのを前にして、怖くなって足がすくんでしまったんです。一緒に参加した人たちは自然に交流できていて、看護師さんは当たり前のように子どもたちに接しているのに、私は子どもたちを平等に見られていないのかな?子どもたちのために何もできていない。これでは意味がないって正直、悔しかったですね」

空手で子どもたちとの距離がぐっと縮まる
子どもたちがめぼしいものを探してゴミ山を登っていく(フィリピン)

自分に心を開いて『お姉さん』『お母さん』と呼んでくれた孤児たちが抱える寂しさや、奇形児との出会いで抱いた怖れや葛藤。自分の目で見て触れた世界は、写真や文章で得たものとは全く違うと実感する。
「もう一度、この子たちに会いに来るために頑張ろう。見て感じたありのままを伝えられるようなボランティアをしていきたい」
櫛部さんは、受賞者に世界一周航空券が贈られるスピーチコンテスト『TABIPPO 2014』で、2,000人を超える聴衆を前に、自分が出会った子どもたちの姿を伝えてグランプリを獲得。旅への切符を手にする。

いざ、世界一周へ

高校2年夏。移動手段や宿泊の手配などすべて自分で行い、姉と二人、80日間でアジア・ヨーロッパ・南米など17カ国28都市を回る旅へと飛び立つ。
異臭が漂う劣悪な環境のゴミ山で、「このゴミはお金になる。ここは、宝の山だよ!」と子どもたちは瞳を輝かせ、母親が「夫がゴミ山で働いている姿は誇らしい」と話してくれたフィリピン。
バングラデシュの線路沿いのスラムでは、電車が通り過ぎると線路を子どもたちが裸足で走りだす。ひしめき合うように立つバラック小屋には家電やスマホなどもそろっていて、「ここでの暮らしに不満はない」と屈託なく答える人々の姿があった。
櫛部さんは、その地に暮らす人々しか感じ得ない希望やバイタリティに触れた。しかし、輝きを放つ姿と隣り合わせに確かにある『貧困』。
「教育を受けさせるよりほかに、子どもたちを生きさせる道はないけれど、学校に通わせてあげるお金はないとお母さんが涙を流したんです。気持ちがズシっと伝わってきて、子どもたちの笑顔の奥には、誰にも甘えることが出来ない厳しい現実がある。何かしたいと思いました」
貧困の意味を知り、子どもたちが夢や希望を語ることをあきらめてしまわないように、助けになるようなボランティアを続けていきたいと想いを強くする。一方で、切迫感も持たずに無為に生きる子どもたちとの出会いもあったという。
「子どもたちを取り巻く『貧困』は、国や地域によって全然違う。『貧困』って言葉でひとくくりには出来ないんじゃないか?自分が向きあっていくべき課題はどこにあるんだろうって、複雑な気持ちで帰ってきた世界一周でした」

  • 線路沿いのスラムでは人々の力強い生活がある
    (バングラデシュ)
  • 子どもたちには、いつまでも夢や希望を語ってほしい

「伝える」を「伝わる」に

ひとりの力で『貧困の子どもたち』を救うには限界がある。自らの経験を『伝える』ことで活動に『共感』してくれる人を増やしたいと櫛部さんは語る。
「私の話を聞いてくれた方たちが、『想いやパワーを感じられた。自分も関心を持たなければいけない』『気になったことは、自分で確かめてみようと思った』とか、何か感じていただける、それだけでもいい。 今、私がボランティアをしているのは、先生の想いが『伝わった』から。私が教えてもらったように『世界には、こういう子どもたちがいる』ということが『伝わる』授業を子どもたちにしたいという夢ができました」
櫛部さんは、第18回ボランティア・スピリット賞全国表彰式で他の受賞者からの推薦によって『米国ボランティア親善大使』に任命された。
「みんなが、私の活動を世界の仲間に『伝えて』きてほしいと言ってくれたことが何よりもうれしかった。出会いが活動をつないでくれる。出会いからもらったことを活かしていけるようにしたい」
ボランティア・スピリット賞で出会った仲間の学校を訪問して「伝える」。国会議員に「伝える」。櫛部さんは、「伝える」場を模索し積極的に出かけて行く。 想いが「伝わる」ことで、大きなムーブメントが起こり、子どもたちを救うきっかけとなることを願って。

ボランティア・スピリット賞で想いを「伝える」