ボランティア・スピリッツ賞(アワード)

ジブラルタ生命・プルデンシャル生命・PGF生命ほか主催/文部科学省後援
PRUDENTIAL SPIRIT OF COMMUNITY(通称:SOC)
ボランティア・スピリット賞(アワード)

昆虫館へようこそ!〜高校生の案内で昆虫や動物とのふれあい体験〜

千葉県立成田西陵高等学校 地域生物研究部
第19回ボランティアスピリット賞  SOC奨励賞受賞

高校生が運営する「昆虫館」

2006年にオープンした成田西陵高校の「昆虫館」は、校内で使われなくなった搾乳(さくにゅう)室を部員らが改装し、塗装まで行った手作りの施設だ。高校生が運営する「昆虫館」として10年以上、地域の人々から親しまれている。

成田西陵高等学校
地域生物研究部のみなさん

開館は、4月~9月の第四土曜日(年に6回)だが、夏休み(7・8月)には1日100人を超える人々が訪れる。館内には、開設当時に寄贈された珍しい昆虫の標本や部員らが採取して作った標本の展示室、昆虫・は虫類の飼育室が設けられている。
この日は、地域生物研究部3年生の山田くんに話を伺いながら館内をめぐった。
「大きな昆虫や色の綺麗な昆虫などインパクトの強い標本を入口付近に展示したり、解説をクイズ形式にしたりして、お客さまに興味を持っていただけるように工夫をしています。標本は、保管状態が良くないと劣化してしまうので、湿度の管理や光の当たり具合などにも配慮しています」

鮮やかなブルーの蝶の標本に目がとまる。
「このモルフォチョウは、世界で一番美しい蝶と呼ばれています。通常、蝶の標本は直射日光にあててしまうと劣化してしまいますが、この蝶は、光を反射して輝く性質を持っていて、標本にしても色あせることがないんです。年に数回の開館だからこそ、『昆虫館』の素晴らしさが伝わるように心がけています」と解説をしてくれる山田くん。
隣では別の部員がお客さまからの質問に、にこやかに応じている。子どもたちに対しては腰を落とし目線を合わせて、大人に対しては標本を比較させたりしながら解説しており、なかなか本格的だ。
先輩の「解説術」を盗むことから始まり、コツコツと昆虫に対する知識を増やしていく。好きなことだから「苦」ではないという。

標本展示室の奥には飼育室が続く。ここではクワガタやカブトムシといったおなじみの昆虫やヘビなどのは虫類の飼育が行われている。
「わぁ、手から離れないよ!!」。カブトムシで遊んでいた子どもから声があがる。
山田くんが「楽しい?」と手を差し伸べ、簡単にカブトムシを自分の手に移しかえる。「すご~い!」マジックでも見るように子どもたちの目が輝く。
「ヘラクレス・ヘラクレスは、カブトムシの中でも一番大きくなるタイプのもので、18㎝くらいまで成長します。今はクリーム色がかった羽の色をしていますが、体内の水分量や餌の加減が変わると真黒になります。子どもたちに人気の昆虫のひとつで、みんな『かわいい』って触っていってくれるんですよ」
その奥では、北アメリカ原産のコーンスネークがつぶらな瞳でこちらを見つめている。
「この子は、昆虫館のアイドル。おとなしくて飼育しやすいヘビなので初心者におススメですよ」
コーンスネークの魅力を伝えたくて、山田くんが自宅から連れてきたそうだ。子どもたちが、かわるがわる頭をなでていく。おっかなびっくり触れてみると、チロっと赤い舌をだす。なんだか、かわいい。
部員らは頼れるお兄さん、お姉さん。この距離の近さが「昆虫館」の魅力だ。
「以前に遊びに来てくださった方が、『楽しかったから』と言って、お孫さんを連れてきてくださるんです。県外から来てくださる方もいます。みなさんがニコニコしながら見てまわってくださるのが嬉しくて、励みになっています」

  • 展示物の解説をクイズで楽しもう
  • 山田くんと標本になっても輝き続けるモルフォチョウ
  • ヘラクレス・ヘラクレスは最大で18cmにもなる
  • コーンスネークは、みんなのアイドル

命をあずかり、育てる

昆虫館の隣には、「蝶の生態館」「ふれあい動物園」が併設されている。こちらも直に蝶や小動物に触れることができるとあって人気の施設だ。
小さな生き物たちと部員らはどのように向き合っているのだろうか。
「僕らがいい加減な扱いをすれば生き物は死んでしまいます。当番を決めて毎日、餌やりや掃除などを行っています」
隅々まで掃除が行き届いた小屋。飼育日誌には、動物たちの体重や体調が細かく記入されている。毎日、手厚く世話をしているからこそ滞りなく一般公開も運営できるのだろう。

きれいな小屋でくつろぐヤギのユキちゃん
大切に飼育されているウサギのパンダさんとカクさん

「どんな動物にも寿命があります。それを看取るのはとても悲しいです。例えばウサギは、辛さを訴えない動物。変調に気づいた時には手遅れということが多いです。いかに早く察してあげられるかが、難しいですね。少しでも元気ないなという兆候が見えたら注意深く観察して、動物の個性に応じてケアしています」
なるほど。「ふれあい動物園」では、一対一で子どもたちを受け入れて、ケガをさせないように配慮することはもちろん、うまく触り方を教えて動物にストレスがかからないように気を配っていた。
「あったかい」「かわいい」「心臓ドクドクしてる」と、子どもたちが抱きしめている『命』は、部員たちが大切に育んでいるものだと実感した。

地域の生き物に目を向ける

地域生物部の活動は、校外にも広がる。成田市と提携して行っている「生き物調査」なども大切な活動だ。部員らが虫取り網を持って近所の草むらを歩いて地域に生息する生物を調べたり、小学生向けのワークショップを行っている。こうした機会に彼らの専門的な知識が役立つ。
「ツチハンミョウは、草むらによくいる昆虫ですが、体の一部から毒を出します。触るとかぶれや炎症を引き起こしてしまうこともあるんです。こうしたことを子どもたちに伝えて注意喚起をしています」と、身近に潜む危険な生物について教えてくれた。

蝶がこんなに近くに!
地域のボランティアの方々の協力を得て運営している「蝶の生態館」

「昆虫や生き物に興味を持ち親しんでもらうことが、僕らの活動の原点です。10年以上続く活動を後輩たちにしっかりと引き継いでいきたいです」
秋、冬と昆虫たちが新しい命をゆっくりと育みながら春を待つように、来春、12年目の「昆虫館」が、オープンするのが楽しみでならない。