ボランティア・スピリッツ賞(アワード)

ジブラルタ生命・プルデンシャル生命・PGF生命ほか主催/文部科学省後援
PRUDENTIAL SPIRIT OF COMMUNITY(通称:SOC)
ボランティア・スピリット賞(アワード)

いやな未来を消せる消しゴムを届けたい

岐阜県立岐阜工業高等学校 化学研究部
第19回ボランティア・スピリット賞 SOC奨励賞受賞
第20回ボランティア・スピリット賞 コミュニティ賞受賞

岐阜工業高等学校化学研究部
【取材に協力してくれたメンバー】
後列左から:矢島 くん(OB) 髙木さん 佐竹くん 安田くん
前列左から:安田さん 松原さん

みんなで消しゴムを作ろう!

「今日は、みなさんに『光るエコ消しゴム』を作ってもらいます」
岐阜県の各務(かがみはら)市立尾崎小学校5年生の教室に髙木さんの声が響くと子どもたちの瞳が輝いた。

この日、化学研究部は小学校での出前講座に臨んでいた。『光るエコ消しゴム』の材料を前に小学生にも分かりやすいように髙木さんが手順を説明していく。他の部員らは子どもたちを整列させて材料を手渡す。材料を溶いた液体を型に流し込み、形が見えてくると「青色キレイだぞ!!」「星型かっこいい!」教室のあちこちで声が上がる。すかさず手の空いた部員が、机を回りテンポよくアドバイスしていく。講座に与えられた時間は約90分。段取り良く進むようにうまく工夫している。

「自分から話しかけたりするのが苦手な子もいます。そういう子こそ放っておけないのでこちらから話しかけ続けるようにして、雰囲気作りをしていきます。最後に笑顔になってくれると、一緒にやれてよかったなって思います」

教室は終始、明るい笑顔にあふれ、部員らが子どもたちとの交流を楽しんでいる様子が伝わってくる。

『光るエコ消しゴム』作りの流れ

  • 1.材料を準備する
  • 2.材料を溶いて型に流し込む
  • 3.液体の気泡をしっかり抜く
  • 4.窯で20分程度焼く
  • 5.熱を冷ます
  • 6.型から外して完成

この消しゴムには、サプライズが仕込まれている。それこそが『光る』の所以だ。光を遮断して闇を作るとポォ~っと消しゴムの光が浮かび上がる。「おおぉー!!!」「何だ~コレっ?!」教室内がどよめく。子どもたちの手のひらに乗った消しゴムが一瞬にして「宝物」に変わった。

  • 暗闇でポーっと輝く『光るエコ消しゴム』
    ※材料に光を蓄える素材が混合されている

いやな未来を消せる消しゴム

化学研究部では、こうした出前講座や体験イベントを年間60回近く行っている。しかし、『光るエコ消しゴム』作りを体験してもらうことだけがこの活動の目的ではない。部員らが大切にしていること、それは東日本大震災の被災地の現状やそこで暮らす人たちの気持ちを多くの人たちに「伝える」ことだ。化学研究部では、2012年から毎年1回、被災地を訪問し、『光るエコ消しゴム』作りをはじめ化学実験を応用した体験イベントを開催している。そこで被災者の声を聞き、心の内に触れることになる。

「震災当日、寒くて暗い室内にいるのがたまらなくつらかったけど、外に出ると星がキレイに光っていてホッとしたという話を聞いて、何かできないかと考えました」

「体験終了後に取ったアンケートに『いやな未来を消せる消しゴムがほしい。いやな未来を消せる消しゴムを作ってください』と書かれていたんです。楽しそうに作業をしてくれていた子だったので、ショックでした」

「光が少しでも安らぎや希望になるならば、消しゴムを光らせてみよう」。部員らは化学の知識を応用して蓄光素材(光を蓄えておくことのできる素材)を用いた『光るエコ消しゴム』を完成させる。消しゴムに太陽光や蛍光灯の光をあてておくと停電になった際にも暗がりを灯すことができる。

震災から6年近い歳月が経過したいま、被災地の遠方に住む地域の人々の記憶からは、震災が薄らいでいる。しかし被災地には、「応援してくれる人がいることが支えになる。私たちのことを忘れないでほしい」と願う人々がいる。

「私たちは、『伝える』こともボランティアをする者の責任だと考え、出前講座やイベントで被災地のことをお話ししています。参加者には二つの消しゴムを作ってもらい、その一つにメッセージを添えて東北に届けます。『離れていても気持ちはつながっています』という想いが少しでも被災地の方々に届いたらいいなと思っています」

「相手の状況や気持を知ることも大切だと思うんです。私たちが知らずに行動したことで相手を傷つけてしまったらそれはボランティアではありません。現地を訪問したメンバーは、報告会を開いて、行けなかった部員も同じ気持ちで活動できるように体験を共有しています」

訪問を開始した2012年頃は暗い表情をした方が多かったが、ここ数年、笑顔で話しかけてくれる人が増えてきたと実感している。

「被災者のみなさんが、消しゴムの光を見て『安心するね』って笑ってくださることが励みになります」。被災地の方々の前向きなパワーは、逆に部員たちに元気をもたらしてくれる。

  • 被災地の状況を説明して参加者にメッセージを書いてもらう
  • 消しゴムに託したメッセージ

化学研究部は社会の縮図

部員らと過ごしていて役割分担がよくできていることに感心した。部員らで役割を決めているのか?とたずねたところ面白い答えが返ってきた。

「化学研究部は社会の縮図みたいな感じですね。リーダーシップを発揮する部員、それに従って動く部員。アイデア出しが得意だったりデザインは任せてという部員がいたり、データの分析を地道に続けてくれる部員がいます。イベントが注目されがちですけど、縁の下の力持ちとして準備を頑張ってくれている部員もたくさんいます。みんな得意分野で活躍しているんですよ」

部室に戻るとすぐに次回のイベントのために使用する資材の準備が始まる

「人と関わることが苦手でも、場数を踏めばみんな話せるようになるし、コミュニケーションがとれるようになってきます。周りがちゃんと対応しているのに一人だけ棒立ちしている場合じゃない(笑)。作業方法を教わることがあっても、“自分で仕事を見つけてやろう”というスタンスなので、自覚を持って行動できるようになりますね」

先輩から引き継がれるのは化学研究部員としての情熱。あとは背中を見て考え、場数を踏む。この繰り返しによって強い化学研究部員魂が育まれているのだろう。

人と人とをつなげる『環(わ)』



通常の部活動では卒業を機に活動を離れるケースが多いが、化学研究部は卒業後も活動に関わり続けるメンバーが多い。

「化学研究部のOBが中心になって『シクロ』という団体を立ち上げて活動をしています。シクロは、化学の用語で『環(わ)』という意味を持ちます。『人の環』『望の環』をつなげたいとの想いを込めて団体の名前にしました。学年やOB・OGといった垣根を越えて、みんなが楽しく参加できる機会を増やしていくことで息の長い活動にしていきたいんです」と、OBの矢島くんが教えてくれた。

『光るエコ消しゴム』作りを通じた活動の『環』は、県外へも広がっている。2012年夏、創部初の試みとして、ボランティア・スピリット賞で出会った善通寺東中学校・西中学校(香川県)の活動に合流してハンセン病に関わるボランティアに参加した。高齢の患者さんたちと『光るエコ消しゴム』作りをしながら、ハンセン病や地域の歴史を教えてもらい交流を深めた。

「香川の訪問では高齢の方が多かったのですが、消しゴム作りが、打ち解けて話せるきっかけになりました。これからもっと勉強してハンセン病について岐阜県内にも伝えていきたいと思います」

お互いの得意な分野で協力し合って、『環』を大きく広げていきたいと部員らは、意欲をのぞかせる。これからも『光るエコ消しゴム』は、多くの人々の心に光を灯していくだろう。小さな光がいつか、いやな未来を消してくれる日がくることを願ってやまない。

  • ハンセン病の啓もう・啓発のために作られた『光るエコ消しゴム』(ピンクは『風の舞』のモニュメント、グリーンは香川の森を模している)
  • 同じく、折り鶴を模した『光るエコ消しゴム』