ボランティア・スピリッツ賞(アワード)

ジブラルタ生命・プルデンシャル生命・PGF生命ほか主催/文部科学省後援
PRUDENTIAL SPIRIT OF COMMUNITY(通称:SOC)
ボランティア・スピリット賞(アワード)

東京にいる私たちも未来の被災者かもしれない 〜全校生徒が関わるボランティア活動〜

目黒星美学園中学高等学校

第21回ボランティア・スピリット・アワード コミュニティ賞受賞

学校をあげた取り組み

「東京にいる私たちも未来の被災者かもしれない」。2011年の東日本大震災以降、目黒星美学園中学高等学校では、生徒全員が地域のリーダーを目指し、災害時に生徒一人ひとりが周囲の人たちと協力し、率先して行動できるように防災意識を高める取り組みに力を入れている。

<主な取り組みの内容>
・2泊3日の「被災地ボランティア研修」の実施(春と夏年2回、宮城県を訪問)
・災害時のトイレ問題の啓蒙啓発や携帯トイレの普及
・宮城県のアンテナショップで復興支援イベントを開催
・校内での被災地研修の報告会や校外での防災ワークショップの開催

今回インタビューに応えてくれたのは高校3年生の6名。中学生の時から女性視点での防災や被災地支援に目を向けてボランティア活動を行ってきた彼女たちに活動を振り返りながらボランティアに対する想いを伺った。

  • 生徒による防災展示企画
  • 宮城県のアンテナショップで復興支援イベントを開催

被災地ボランティア研修

「被災地ボランティア研修」は、2011年の東日本大震災発生後、生徒から「被災地に行って自分たちができることをしたい」と声が上がったことがキッカケで始まった活動だ。2018年の春までに合計13回被災地を訪問し、宮城県内の中学校との交流や仮設住宅などでの交流会(星美っ子カフェ)の開催、被災地の方々と防災について考える活動などを行っている。希望者は中学3年生の春から高校2年生の春までの間に最大5回この研修会に参加できる。

生徒たちは事前準備としてボランティアを行う上で必要な知識や心構えを学ぶ。これに加えてリーダーとなる生徒は、現地で行うプログラムの企画や段取りを考えて、参加する生徒たちのとりまとめを行う。

「中学生の時、先輩方が被災地研修のプレゼンをする姿を見て、私もあの輪の中に入りたいとボランティア研修に興味を持ちました」(長島さん)

「希望者が参加する研修なので、開催される回によって参加者も人数も変わります。私はリーダーを経験しましたが、参加者の分担を決め、段取りよくプログラムを進めることがとても大変でした。それでもみんなをまとめてやりきった時は、何とも言えない達成感があり、リーダーを任されてよかったなと思いました」(松井さん)

先輩への憧れがボランティアへの興味や学びへとつながり、やがては行動となる。そして自身の経験を後輩に受け継ぐのが「被災地ボランティア研修」の特徴だ。

「私が参加したボランティア研修で復興住宅のある場所でカフェを開いたことがあったのですが、来てくださった方と何を話していいかわからず戸惑ってしまいました。一緒にカルタ遊びをしていると、相手の方から話しかけてくださり、徐々に打ち解けていって『私の話を聞いてくれますか?津波がここまで押し寄せてきて・・・』と、辛い経験を話してくれました。『話して少し気持ちが楽になりました』と言ってもらえた時には、一緒に時間を過ごすことでお役に立てたのかなと思えました」(森さん)

「地元の方との交流で『被災地』という言葉を全く悪気なく使っていたのですが、『次は東京も被災地になるかもしれないのに』と、少し強めの口調で言われたんです。その時初めて相手を傷つけていたんだと気づきました。けれど作業をしている時に声をかけ合ってお互いを思いやる心を伝えあえば、物事はうまく進んでいきます。言葉は相手を傷つけてしまうこともあるけれど、助けることもあるだと言葉の大切さに気づくことができました」(所賀さん)

「誰かのためにと始めたボランティアが自分に大きな気づきを与えてくれました」参加するプログラムによって一人ひとりが得る経験は異なるが、人と人とが向き合い支え合うことでつながりや信頼が生まれることを感じている。

  • 被災地研修で防潮林の植樹を行う生徒たち

災害時、トイレはどうする?

『被災地ボランティア研修』の中で、災害時に深刻なトイレ問題が発生することを知った。

見逃されがちな問題だが、「どこで用を足せばいいのか」「水が止まってどう処理すればいいのか」など、実際にトイレが使えない状況にならないと大変さに気づかない上に、「緊急時なんだから人気のないところならいいだろう」といった心無い言葉を投げかけられることもあり、女性にとっては心を痛めることの多いデリケートな問題だ。これまでの震災でも水分や食料を控えた結果、深刻な健康問題を引き起こすケースが繰り返されてきた。「東日本大震災の時にとても大変な思いをしたから、同じような災害が起こった時に困らないアイディアがあったら良いのに・・・」という被災地の女性の声を受け、女性の使いやすさを考えた『携帯トイレ』を考案した。この『携帯トイレ』を利用すれば、水道が使えなくなった時でもトイレの個室を利用して視線を気にすることなく安心してトイレを使うことができ、1回1回可燃ゴミとして処理できる。

目黒星美学園中学高等学校では、生徒が主体となり、トイレ問題について考え、防災ワークショップの開催や食料や毛布の備蓄と同じように『携帯トイレ』の備蓄を呼びかける活動を行っている。

2016年の熊本震災の際には、生徒の大半が参加して『携帯トイレ』を作り、1万7,000回分を熊本に届けた。

「熊本震災の時には、多くの生徒が結集して『携帯トイレ』を作りました。ごく自然に集まって作業をしていて、みんなの意識の中にこの活動が根づいているんだなと実感しました」(清水さん)

その時には直接、熊本に足を運ぶことはできなかったが、『携帯トイレ』を受け取った方から学校に「携帯トイレをありがとう。近所の方と分け合って使用しました」「緊張が続いている中でパッケージのイラストに心が和みました」と、感謝を伝える電話や手紙があったという。

大人でさえも憚られるトイレの話を多感な年頃の女子高校生が口にすることに抵抗はないのだろうか。

「災害の場で主導権を握っている多数は男性です。男性にとっては恥ずかしくないかもしれないけれども、女性にとっては恥ずかしいこと、男性が気づかず見落しがちな部分を私たちが拾って声をあげる。災害が起こった時に老若男女問わず使いやすいものが整えていきたいと使命感をもってやっているので恥ずかしさはありません」(上髙さん)

 人として「必要なもの」「大切なこと」を気づかせてくれる彼女たちの姿勢は、災害や防災を考える場に新たな風を吹き込んでいるようだ。

  • 『携帯トイレ』のパッケージイラストも生徒が描いた

異なる視点を持つ仲間がいるからこそ

本レポートでは全校生徒が関わる活動の一部しか紹介できないが、取材を通じて目黒星美学園中学高等学校の生徒一人ひとりが課題意識をもって活動に取り組むひたむきさを感じることができた。

「人の輪の広がりを意識した活動を心がけたい」「防災や災害を考える場でもっと女性の声を活かせるように働きかけたい」ボランティアという大きな枠組みの中で少しずつ異なる視点をもった仲間が集っている。「それが目黒星美のボランティアの素晴らしいところです!」と、彼女たちは笑顔を見せてくれた。

今後、目黒星美学園中学高等学校のボランティアがどんな広がりを見せていくのかとても楽しみだ。

  • 熊本地震発生の際は、生徒の大半が参加して『携帯トイレ』を作った

亰百合子先生メッセージ

目黒星美学園中学高等学校
亰百合子(きょうゆりこ)先生

亰先生は、腹話術で宮城県内の公民館や高齢者福祉施設を訪問するボランティア活動で第3回ボランティア・スピリット・アワードの『全国賞(当時)』を受賞されました。教員となられた現在、生徒を導く上で大切にしていることを伺いました。

生徒たちは良いところをたくさん持っています。活動を通じて本人が気づいていない良いところを引き出し、さらに自信を持たせてあげたいと考えています。もちろん活動の中で成功することを目指しますが、実は、失敗の中にこそヒントがある。失敗した時に、ただ「失敗した・・・」と落ち込んで終わるのではなく、「こうしてみればよかったかもしれないね」と、教員から違った視点を与えて、前向きな方向にシフトチェンジしてあげる。失敗を恐れず、ヒントを活かして次の経験に活かせるようサポートしています。
私自身がボランティア・スピリット・アワードの受賞者です。当時を振り返って、仲間と出会う素晴らしさや多くの方々の笑顔に触れる喜びなど、ボランティア活動が人生の糧になり、今に繋がっていると実感しています。生徒たちに「今はまだそれが分からなくても10年後、20年後にかけがえのない経験だったと気づく日が来る」と、経験者として伝えられることを嬉しく思っています。