ボランティア・スピリッツ賞(アワード)

ジブラルタ生命・プルデンシャル生命・PGF生命ほか主催/文部科学省後援
PRUDENTIAL SPIRIT OF COMMUNITY(通称:SOC)
ボランティア・スピリット賞(アワード)

被災地へのエール 〜熊本地震の避難所でのボランティア演奏会〜

御船中学校吹奏楽部
(みふねちゅうがっこうすいそうがくぶ)
坂本 優(受賞時:中学2年生)
津金 亜澄香(受賞時:中学1年生)

第21回ボランティア・スピリット・アワード ブロック賞

2016年4月熊本地震発生

御船中学校吹奏楽部のみなさんは、熊本地震の被災者にむけて、ボランティア演奏会を行っています。今回のレポートでは、ボランティア演奏会を立ち上げた先輩たちの想いを引き継いで、活動に取り組んでいる前部長の坂本優さんと部長の津金亜澄香(つがね あすか)さん、そして顧問の山本貴一(やまもと たかかず)先生に話をお聞きしました。

2016年4月、熊本地震が発生。御船中学校のある上益城郡御船町(かみましきぐんみふねまち)も大きな揺れに襲われ、御船中学校も一部の設備が壊れて授業ができないほどでした。また地域の避難所に指定されていたため、体育館には300人近い人たちが避難していました。

吹奏楽部のボランティア演奏会はそのような大変な状況の中で始まった活動です。キッカケは当時中学3年生だった部員の藤川さんが、「みんな苦しい思いをしている時だからこそ、御船町のために何かしたいんです。町の人たちを元気にしたいです。避難所で演奏をさせてください」と、山本先生に申し出たことでした。

「まずは、あなたたちの生活を元に戻すことが大切です。そう言って最初は反対しました」と、顧問の山本先生は振り返ります。

演奏会を申し出た藤川さんをはじめ、部員の中には自宅が壊れてしまった生徒や遠方に避難していた生徒もいたからです。

それでも藤川さんは、あきらめませんでした。「今、私たちができることをしたいんです」と何度も訴え続けて、ついには、山本先生や校長先生、とてもそんな気持ちにはなれないと藤川さんの提案に否定的だった他の部員の心さえも動かしました。

しかし「御船町を元気にしたい」という想いが、すぐに町の人たちに伝わった訳ではありません。

大切な家族を失った人、家を失った人、仕事を失った人、不安な思いを抱えながらの避難所生活。苛立ちや疲れが見え始めている中で「騒がしくなるのが嫌だから、演奏会はしないで欲しい」「音楽を聴くような気持ちになれません。そっとしておいてくれませんか」と、抗議の声が、学校に寄せられていたのです。

最初に演奏会を行ったのは、震災発生から2週間後の4月29日。散らかった部室から楽器を運び出し、たった2時間の練習で臨んだ演奏会でした。

「部員たちは、『みんなに笑顔を!』『元気よく!』と演奏をしていたのですが、演奏している生徒も、司会を務めた生徒も演奏を聴いていたみなさんも、気がつけば会場全体で涙を流していました」と、山本先生。張りつめていた心に、想いのこもったメロディーが届いた瞬間でした。

「ひどいことを言いましたね。ごめんなさい。ありがとう」そう言って、抗議をしていた人たちも涙を流して演奏に聴き入ってくれたそうです。御船中学校の体育館の避難所では4回の演奏会が開催されました。

  • 避難所だった体育館で開催された震災直後の演奏会。

聴いてくださる方が楽しめるものを

ボランティア演奏会の評判は、口コミやTV中継などによって県内外に広がり、「私たちの避難所にも来てください」「公民館でも演奏してくれませんか」と、たくさんの依頼が来るようになりました。震災後、2年以上が経過する今も、依頼が絶えることはありません。

地震のあった年、坂本さんは中学1年生、津金さんは小学校6年生でしたが、今は後輩を引っ張る立場で演奏会や運営にあたっています。

ボランティア演奏会の構成や選曲などは、全て部員たちが考えています。避難所での演奏で特に注目したのは避難されている方々の年齢層。その多くが60代以上の方々でした。

「最初は自分たちのレパートリーの中から明るく元気な曲を選んで演奏していましたが、聴いてくださる方々がもっと楽しめるように、演歌や歌謡曲なども取りいれるようになりました。10曲位しかなかったレパートリーも演奏会を始めてから50~60曲に増えました」(坂本さん)

「必ず演奏するのは、『上を向いて歩こう』です。前向きにがんばろうという気持ちになれると言ってもらえます。『北国の春』もリクエストが多いです。演奏に合わせて歌ってくださる方もいるので、私たちも嬉しくなります」(津金さん)

進行役の部員によるコントやクイズを交えた曲目紹介、吹奏楽のメロディーにのせて山本先生が歌う演歌コーナーや合唱で客席とステージの距離を縮めます。そして楽曲の間に「あの日から1年」「私たちみんなで乗り越えてきました」「がんばろう!御船!」と部員たちは、復興に寄せる想いを伝えます。ステージが終わる頃には、聴いているみなさんの顔が明るくなっています。

今では、地域になくてはならない演奏会になりました。練習の音色を聞きつけた近所の方が「今日は、演奏会の日ですか?」と訪ねて来ることもあるそうです。

楽しい時間を届けるには、部員の心をひとつにまとめることが大切です。チームワークの秘訣を尋ねてみたところ、

「基礎練習をしっかりするとか、挨拶練習や返事練習(※)は、毎回必ず行うようにしていますが、特別なことはしていないです。私たちの演奏で笑顔になってくれる人がいるからひとつになれるのだと思います」と、坂本さんが教えてくれました。

「意見がぶつかるとか、体調が悪いとか、機嫌が悪いとか・・・一人ひとりはいろいろ抱えていると思いますが、『聴いてくださる方には関係ないこと』と、人を楽しませる姿勢を身につけたのだと思います」と山本先生。

吹奏楽が好き、演奏が好き。「辛いなと思ったことも、ステージに立つとみんな楽しい思い出になります」と話してくれた坂本さんがとても頼もしく見えました。

※部活の開始時に、一人ずつ「はい」と返事をしたり、「おはようございます」と挨拶をしたりする練習。返事をつないでいくことで連帯感が高まる。

  • 挨拶練習の様子。

元気にするから、一緒に元気になろう!

被災者も日常生活を取り戻し始めた今、ボランティア演奏の形も変わってきています。仮設住宅や避難所を回るほかに、地域のお祭りや1,000人以上の参加者が集まるイベントに招かれる機会が増えてきました。その多くが、震災直後の演奏を聴いた方々や口コミで活動を知った方々からの依頼です。

「あの時の演奏に励まされました。今日も心が洗われました」と、辛かったことや復興を目指してがんばって来た毎日を思い出しながら、演奏に聴き入ってくれる方々もいるそうです。

部員の気持ちにも変化が見え始めました。震災発生直後は、「御船町を元気にしたい!みなさんを笑顔にしてあげたい」と、与えることに使命を感じて活動を行っていましたが、演奏会での出会いが部員たちに気づきをもたらしたのです。

「みなさんに『ありがとう』と言ってもらうことで、私たちが元気をもらっていることに気づきました。今までは、元気を『与える活動』を目指してきましたが、これからは、『一緒にできる活動』にしていきたいと思うようになりました」(坂本さん)

「演奏している私たちが笑顔になれるのは、聴いてくださる方々がいるからです。ひとりでも多くの方々と一緒に笑えるように、依頼は全部引き受けたいと思っています」(津金さん)

  • ボランティア演奏会では、歌やダンスも披露する。

気づき、考え、行動する

1年間部長として頑張ってきた坂本さんは、校内のゲストティーチャーとしてボランティアについての授業を行いました。

どうしてボランティアをやるのか?誰のためにボランティアをやるのか?という問いに、生徒たちからは、「吹奏楽部は有名になりたいからやっているんじゃないの?」「自分がやりたいだけなんじゃないの?」と、厳しい意見もあがりました。

「ボランティアを始めるキッカケが、自分のためでもいいと思います。ボランティアで大切なのは、気づいて、考えて、行動すること。その行動が誰かのためになるなら悪いことではないと思います。私も地震に遭わなかったら、こんなにボランティアについて考えることも、御船町が大切な場所だと意識することもなかったかもしれません」と、坂本さんは想いを伝えます。

これから、どんな風にボランティアに関わっていきたいか、坂本さんと津金さんに聞いてみました。

「どんな小さなボランティアでも、それをキッカケにして発展させる努力をすれば、自分の周りや地域の雰囲気はより良いものになると思います。今までは御船町のことだけを考えて活動をしていましたが、もっと広い視野を持って活動していきたいです」(坂本さん)

「ボランティアをしていて、苦しい想いをされている方ほど人に対して厳しいことを言っているように思えました。言われた瞬間は悲しいですが、苦しい想いをしている人たちの気持ちを一番に考えて行動すれば、いつか心が通じ合えると思います。分かり合えるボランティアを続けたいです」(津金さん)

御船中学校吹奏楽部のみなさんの今後の活躍がとても楽しみです。

  • 震災1年後、近くの小学校での演奏会での様子。