ボランティア・スピリッツ賞(アワード)

ジブラルタ生命・プルデンシャル生命・PGF生命ほか主催/文部科学省後援
PRUDENTIAL SPIRIT OF COMMUNITY(通称:SOC)
ボランティア・スピリット賞(アワード)

「北限のシラス」で、地域に活気と元気を!

祭城 武(さいき たける)

(受賞時:宮城県農業高等学校3年生)
第22回ボランティア・スピリット・アワード
文部科学大臣賞
米国ボランティア親善大使

北限のシラス

みなさんは、「閖上(ゆりあげ)シラス」をご存知だろうか?
「閖上シラス」とは宮城県名取市閖上漁港周辺で水揚げされるシラスのことで、2017年から新たに漁獲が始まった名取市の新しい名産品だ。日本の一番北の地域で水揚げされることから、「北限のシラス」とも呼ばれている。祭城 武さんは、「閖上シラス」を使って地域の活性化を目指すボランティアを行っている。
 
2011年3月の東日本大震災で、閖上港は壊滅的な被害を受けた。震災からの復興を目指す閖上に、「北限のシラス」の水揚げは、ひとつの希望の光をともした。

祭城さんも幼い頃によく遊びに行った閖上地区の傷ついた姿に心を痛めていた。

「震災の時、僕は小学校4年生でした。一瞬で大切な場所がなくなってしまったことがショックで、何かしたいと思いましたが、その時の僕は『想う』ことしかできず、家族で復興朝市に出かけた時にお小遣いで何かを買うことが精一杯でした」

『想い』を行動に導く機会がやって来る。宮城県農業高等学校の「農業経営者クラブ」に所属して、地元の農産物や特産品を使った企画や商品開発などを行なっていた祭城さんのもとに、顧問の山根正博先生を通じて、「閖上シラス」を使って地域活性化のアイディアを考えてほしいとの相談が持ちかけられたのだ。これは、東日本大震災の後、福島県から名取市閖上に移転して営業を再開したちりめんじゃこの加工業者が、「閖上シラス」を使って新たな展開ができないかと、名取市役所に持ちかけたことに端を発する。

「農業学校の生徒なので、漁業と連携した話をいただいた時は、驚きましたが地域のために何かできるなら挑戦してみたいと思いました」

こうして「閖上シラス」の認知度アップと地域の活性化を目指したプロジェクトが立ち上がる。

  • シラスを提供してくれたちりめんじゃこ加工業者さんと商品開発の打ち合わせ

全国に広げたい

祭城さんは、農業経営者クラブ「シラス班」のリーダーとして、メンバー2名と共にアイディアを出し合う中で、全国の高校生が地元の食材や特産品を使ったオリジナルメニューを考案して競い合う、コンテストへの参加を決意する。

「コンテストで選ばれたメニューは、大手コンビニで、商品化されて期間限定で全国販売できる権利を得られるので、メディアから注目される可能性が高くなります。『閖上シラス』の知名度を上げるには、これ以上のチャンスはないと考えました。目的を果たすには、優勝しかない。そのくらいの覚悟で取り組みました」

思いは大きかったが、メンバーの誰もが料理の経験は皆無に等しく、シラスを引き立てるメニューの考案には時間がかかった。トルティーヤ、焼きそば、たこ焼きなど思いつく限りのメニューにシラスをアレンジし、結果、シラスと最も相性の食材は、ご飯だという結論にたどり着く。

「あとはインパクトです。色合いや食感の新しさ、食べやすさにもこだわり、断面を見せることができる具沢山のおにぎらずを作ることにしました。メインのシラスが一番引き立つように、醤油と蜂蜜と鷹の爪を使ってピリ辛に味付け、アボカドやチーズといった若者受けを狙った食材を高菜とタルタルソースを混ぜた高菜タルタルで和え、ご飯にはカリカリ梅を練り込みました。更にオーブンでパリパリにあぶった春巻きの皮でおにぎらずを挟みました。ネーミングも知恵をしぼり、春巻きの皮のパリッとした食感、おにぎらず、『閖上シラス』を駄洒落っぽく掛け合わせて『パリッと閖上おにしらす』にしました」

見た目にも味にも名前にもこだわった『パリッと閖上おにしらす』

企画から大会までの期間はわずか3カ月、試行錯誤する中で支えになったのは、ちりめんじゃこの加工業者や市役所の担当者など、きっかけを作ってくれた大人たちの存在だったと祭城さんは振り返る。

「加工業者の社長さんには感謝しかありません。ご自身が被災して苦境の中にありながらシラスを無償で提供してくださいました。また市役所の方々は、シラスや漁業について丁寧に教えてくださいました。成功するかどうか分からないのに、みなさんが、僕らを信じて任せてくださったことが何よりも励みになりました」

「地域の人たちの期待に応えたい」。祭城さんたちの想いが通じ、『パリッと閖上おにしらす』は、400近いエントリーの中から勝ち上がり見事優勝。考案したメニューの販売権を手にする。

  • 目標にしてきたコンテストで優勝を手にした

思うほど簡単なことではなかった

しかし、「閖上シラス」を使ったメニューの商品化、全国販売は決して簡単なものではなかった。大手コンビニの商品開発部門との打ち合わせで、求められたのは利益を生み出す再現メニューの開発だった。

「商品には『閖上シラス』を使いたかったのですが、価格が高いことに加え、漁獲量が少なく材料の確保が難しいので断念しました。また、春巻きをオーブンであぶる工程は手間がかかり大量生産に向かないことが分かり、商業販売をする上で、できることとできないことの折り合いをつけなけなければなりませんでした」

祭城さんは現実を目の当たりにしながらも、諦めずコンビニの開発担当者が作る試作品の試食を重ねて、自分たちが届けたかった味や食感をできる限り再現してもらうよう交渉を重ねた。

「例えば『シラスが際立つ味わいにして欲しい』など、絶対に譲れない部分は伝えて実現させてもらいました。完全な再現はできないけれど、僕らが考案したメニューが全国に並べば、宮城農業の名前から『閖上のシラス』にたどり着く人もいるかもしれない。必ずプラスに働くと信じて進めました。厳しいなと感じることもありましたが、コンビニの担当者の方々には、たくさんのことを教えいただき本当に勉強になりました」

販売開始日には、学校近くのコンビニの店頭に立ち、商品開発の経緯などを説明しながら、消費者へと手渡し、少しでも多くの人に興味を持ってもらえるように努めた。それでも、「僕らが頑張っていると言っているだけで、ただの自己満足なのではないか」という思いが時折頭をよぎった。活動がメディアに取り上げられても、商品が全国販売されても、祭城さんのところまで、消費者の生の「声」が届くことがほとんどなかったからだ。

全国で販売された『おにしらす』。オリジナルメニューに近づけるため交渉を重ねた

閖上の方々の優しさに触れ

そんな祭城さんに、自信を与えてくれたのは、閖上の方々の優しさだった。閖上港で開催された「シラス祭」で、オリジナルの『パリッと閖上おにしらす』を無償で振る舞まった際に、閖上の方たちが「この土地のために頑張ってくれているんだね。ありがとう」と、感謝と励ましの言葉をかけてくれたのだ。

「閖上の方々に『君たちから元気をもらえたよ』と言っていただけたことが何よりも嬉しかったです。会場に足を運んでくださった方の多くは被災された方々です。地元の人が元気になって欲しくてこの活動を始めたので、『パリッと閖上おにしらす』を食べながら、笑ってくれる姿に触れて、誰かのためになっている、活動を続けてきてよかったと心から思えました。そして僕自身が、誰よりも地域の方々に支えられ、元気をもらっていたと気づくことができました」

祭城さんは2019年の春に高校を卒業、現在は福島県で学生生活を送りながら、後輩たちのサポート役としてプロジェクトに関わっている。

「閖上シラスのプロジェクトに関わったことで、特産品を使って地域の活性化に取り組み、PRをすることに興味を持つことができ、今後の目標につながる成長ができました。大学では食品について学び、宮城県や福島県そして東北の食の活性化につながるようなことを考えていきたいです」

「誰かのために」と思って始めた活動は、それ以上に、自分を成長させてくれたと言う祭城さん。これからも「誰か」に笑顔を届けるために、自身の活動を楽しみ、笑顔でいることを大切に、東北に活気をもたらす活動を続けて欲しい。

  • 「シラス祭」で、『パリッと閖上おにしらす』を振舞う祭城さん。「おいしい」と言ってもらえることが何よりも嬉しい