NPO団体 Free Style(茨城県立水戸農業高等学校)
第17回ボランティア・スピリット賞 ブロック賞受賞
『Free Style』は、「水戸農業高校ボランティア部」との二枚看板を掲げて活動する珍しい団体だ。
地元で活躍するNPO法人の代表から「利益の再分配を行わない組織や団体は、みんなNPOなんだよ。サッカー部も吹奏楽部もボランティア同好会だって、NPOを名乗っていいんだよ」と、背中を押されたのがきっかけだった。「僕らは、NPOとして活動できるんだ」。メンバーは、会員規約や役員名簿を役所に届け出て『NPO団体』の認可を得た。
『NPO団体』となることで、メンバーは卒業後も『Free Style』にとどまれるし、活動資金の調達を団体で行える。これにより、長期的に、より自発的に活動に関われるようになった。以来、週末は『NPO団体』として活動し、平日は『ボランティア部』として活動をしている。
メンバーは、ほかの部活動を掛け持ちしながら各自、都合のつく時に活動に参加する。「できるときに、できることをしよう。形にとらわれず、地域のボランティアとして関わっていこう」と『Free Style』を貫いているのだ。
この日集まったメンバーは、「雨が降ってきちゃったから」と、修学旅行で沖縄の慰霊塔へ奉納するための千羽鶴を折っていた。生徒からの依頼を引き受けるのも彼らならではの活動だ。
「農業高校の知識をいかして、休耕田を蘇らせてほしい」。国立常陸海浜公園からの依頼を受けて、地元のボランティア団体と一緒に戦前から放置されていた水田の再生に乗り出す。
水戸農業の生徒は、みな在学中に、田植えや稲刈りを授業で経験する。土木科の生徒は、測量などの知識に長けている。「水田ならば、得意分野。任せてください!」と、意気込んで参加したメンバーだったが、そう簡単なものではなかった。
水田には、近くの沢田湧水から水を引く計画を立てた。しかし、水田が湧水より高い土地であったため、整地の段取りから作業が始まる。
「土地の測量や水量を計算して、土壌をどうやって積み上げて整地しようか検討しました。専門的で難しかったけど、それよりも、水路が竹やぶの中にあったので、茂みを切り開いていかなければならなくて・・・これがもう、大変!若さ勝負の力仕事(笑)」。
「若い人たちがいると助かるよ。水戸農業の未来は、明るいね。知識を持った若者の力って素晴らしいね!」と、一緒に汗を流した地域のボランティア団体からの信頼も厚い。
「もっと頑張ろう」。鎌を振るい、鍬(クワ)を握る手にも力がこもる。ようやく水が引かれた時には、大歓声が上がった。
こうした活動が、地元の新聞やフリーペーパーに取り上げられたことで、仕事の依頼が増えた。「以前、こんな活動をやっていたよね?だったら、この手伝いも、してもらえないだろうか」と、評判を聞きつけた地域の方々に声をかけられる。ボランティアがボランティアを呼びこんでくる。
ショッピングモールの『児童絵画展』の設営・撤去の手伝いや助産院での妊婦さん向けの有機野菜栽培指導。学校で製造した味噌をタイへ輸出して、茨城の農業の将来について一緒に考えようなど、内容は多岐にわたる。
「僕らは、裏方仕事が多いので、来場者から直接声をかけられることが少ないんです。でも、お客さんが楽しそうにしている姿を見ると喜んでくれてよかったな。手伝った甲斐があったなって思う」。
「子どもと遊ぶイベントがあって、僕は、ちっちゃい子が苦手で、嫌だなって思ったんですけど、やってみたら意外と楽しくできて、苦手でもOKかな。肩の力が抜けました。すごくいい経験だった」。
「ボランティアに限らず、知らないことにトライできるのが、新鮮で楽しい!」とメンバーは、目を輝かせる。
「イベントで知り合った小学生が、道とかで挨拶してくれるとすごく嬉しいんです。もっと一緒に何かしたいな。僕たちらしいイベントを考えてみたいなって思ってます。畜産科の動物との触れ合いなんかも面白そう」。子ども向けのイベントの企画運営に意欲をのぞかせる。
この取材に同席して、メンバーの意気込みを聞いた顧問の川又先生は、「こういう意見があがってきて嬉しいです。社会に出てリーダーシップを発揮できるようになるには、高校生のうちに経験を積んでおく必要があります。これからは、イベント運営の経験をどんどん積んでいってほしい。また、地元の大学と連携して、6年後に開催される東京オリンピックのボランティア育成を見据えた活動プランも検討しているんです。社会人になった『Free Style 』のメンバーが、下の世代をけん引できるような人材に成長してほしいですね」と、メンバーにエールを贈った。