ボランティア・スピリッツ賞(アワード)

ジブラルタ生命・プルデンシャル生命・PGF生命ほか主催/文部科学省後援
PRUDENTIAL SPIRIT OF COMMUNITY(通称:SOC)
ボランティア・スピリット賞(アワード)

災害時には避難場所ですら安全ではない 〜瀬戸内の島から「減災」を呼びかける高校生の挑戦〜

広島県立瀬戸田高等学校 しまおこし事業部

第21回ボランティア・スピリット賞 文部科学大臣賞受賞
<向かって左から>
光石さん・枝松さん・矢野さん・箱崎さん・竹ノ畑さん

人口の半数近くが高齢者

広島県尾道市から瀬戸内の穏やかな海を船にゆられて30分ほど行くと生口島(いくちじま)の玄関口、瀬戸田港に到着する。のんびりとした雰囲気と港で作業する人たちの威勢のいい挨拶に迎えられた。初めて来る場所なのに懐かしさを感じる。
 
今回取材で訪れた瀬戸田高校は、全校生徒58人の小さな学校だ。生徒会執行部を兼任する5人が、しまおこし事業部の運営に関わり、「島への恩返しにつながる」活動を行っている。
 
2017年度の活動でしまおこし事業部のメンバーが着目したのは「減災」。減災とは、災害時に被害を完全になくすことや防ぐこと(防災)は難しいという考えを前提として、被害を減らすための対策をとることをいう。
 
しまおこし事業部が減災を活動のテーマに選んだ理由は二つある。
一つ目は、南海トラフ地震の発生予想。
南海トラフ大地震が発生した場合、生口島は、土砂災害で大きな被害を受けると予想されている。
 
二つ目は、島の高齢化。
生口島の人口は約8,900人(2015年国勢調査)、そのうちの約42%が65歳以上の高齢者だという(しまおこし事業部調べ)。災害時に高齢者を一斉に避難させるには困難が伴うと考えられる。
 
「この島が大好きです。僕を育ててくれた島や地域の人たちに恩返しがしたいと思い、しまおこし事業部に入りました。高齢者の多い島だからこそ、減災を知ってもらうことで、救える命を増やせるように準備をしておきたいと考えました」と、しまおこし事業部リーダーの矢野さんは言う。
 
活動を始めるにあたって、矢野さんと副リーダーの光石さんは、東日本大震災の被災地を訪問。現地の方々から「逃げる時にどんな工夫が必要か」「生存率を上げるためにはどうしたらよいのか」などの聞き取りを行った。
 
「津波ですべて流された土地を目の当たりにしてショックでした。災害に対する意識が変わりました。僕らが被災地の様子を生口島のみなさんに伝え、危機意識を持ってもらうことも減災につながると思いました」(光石さん)

  • 被災地の方々との交流で多く気づきを得た

『逃げ地図』作りを生口島でやってみよう

島の減災につなげるため、しまおこし事業部のメンバーは、島の住民に向けに『逃げ地図』作り(※)のワークショップを開催する。『逃げ地図』作りとは、『防災教育のための逃げ地図づくりマニュアル』に沿って行うプログラムだ。
 
ワークショップの参加者は、自分の住む地域の白地図に危険な場所を書き込み、一番近い避難所まで何分で逃げきれるのか、どの道が安全かなどを考えながら避難ルートを作る。
ワークショップでは、島に14ある地区のうち、名荷(みょうが)地区を中心とした『逃げ地図』作りを行った。




『逃げ地図』作りの7つのステップ

  • 考えるテーマを選ぶ
    住んでいる地域で起こりそうな災害を考える。

  • 危険な範囲を囲む
    自治体発行の『防災マップ』をベースに危険な範囲を囲む。

  • 避難場所を決める
    『防災マップ』で指定されている避難場所や参加者それぞれが決めた避難場所に印をつける。

  • 危険な場所に印をつける
    『防災マップ』に記されていない場所、例えば土砂で道がふさがれてしまって危険な場所などに「×」印をつけ、付せんに理由を書く。

  • 道に色をぬる
    高齢者が3分間で坂道を歩ける距離を基準にして避難場所までの道のりに色をぬる。

  • 振り返る
    参加者同士で得た情報をまとめる。

  • 発表して話し合う
    ほかの班の参加者と発表し合って情報を共有する。



※『逃げ地図』プログラムは、日建設計ボランティア部が考案したもので、一般社団法人 子ども安全まちづくりパートナーズ(代表理事:明治大学 理工学部教授 山本俊哉氏)が、逃げ地図プロジェクトチームの一員として、「逃げ地図」の活用に関する研究と実装活動を行っています。
https://kodomo-anzen.org/activitys/activityslist/2017/

  • ワークショップで制作した生口島の『逃げ地図』(一部)




「生口島は、土砂災害が多いとされていて、津波が起きると被害が大きくなるという事態も十分に考えられるので、土砂と津波が同時に襲ってきた場合を想定した『逃げ地図』作りを行いました」(竹ノ畑さん)
 
ワークショップでは、参加者である地域の高齢者の話がとても参考になったという。
 
「危険な場所の洗い出しをしていると、『ここも大雨のときに川があふれて危ないよ』『神社は島の中でも高い場所にあるんだよ』とか、僕らの知らない情報をたくさん教えてくれました。安全だと思って何気なく歩いていた道が災害時に、死を招く場所になる。場合によっては避難場所ですら安全ではないとわかりました」(矢野さん)
 
『逃げ地図』に関わるようになって、メンバー一人ひとりの意識も変化したという。
 
「家族が別々の場所にいて災害が起きても再会できるように、避難場所について話し合うようになりました」(箱崎さん)
 
「地域の人たちに『危険な場所を教えてくれてありがとう』と言ってもらえたことがとてもうれしかったです。この活動が人の役に立っているんだと実感しました」(枝松さん)
 
避難ルートや危険な場所を事前に知っておくことが、生き延びる可能性を広げる一歩。島内のすべての地区で『逃げ地図』作りワークショップを行って、多くの住民に減災を伝えたいとメンバーは意気込みを語った。

  • 近隣の島に住む高校生に『逃げ地図』作りを体験してもらった

『島』に住む仲間でも見え方が違う?!

しまおこし事業部の取り組みは、近隣の島に住む高校生たちにも影響を与えている。
 
島に住む高校生同士の交流会で、『逃げ地図』作りのためのフィールドワークとワークショップを行った。しまおこし事業部の案内で、参加者が島内を歩き、島の地形や危険な場所を理解した上で瀬戸田港から高齢者の足で3分で避難できる避難ルートを検討した。
 
「参加した生徒を6つの班に分けて、同じ場所を歩いたのですが、避難所の選び方や逃げるルートが全く違っていました。みんな似た環境の中で暮らしているけれど、海抜が低いとか、地盤が弱くて土地が陥没しやすいとか、観点が違っていたんですね」
 
参加者それぞれが、自分の住む地域に地図を置き換えて『逃げ地図』作りに取り組んでいたことに驚いたと矢野さんは言う。
 
島に住む人が共通して考えられる課題と個別に考えなければいけない課題とを整理することができ、地域ごとに『逃げ地図』を作る意義を確認し合える交流会となった。
 
「準備まで時間がなくて冷や汗をかきながらやりました」と笑うメンバーだが、その瞳は生き生きと輝いている。

  • 実際に島を歩いて危険な場所をチェック

小さなつながりを減災につなげる

二つのワークショップを経験したメンバーらは、人と関わり、つながることの大切さをよりいっそう意識するようになる。
 
「島の中で『この間、話をしてくれた人だよね』と声をかけられることが増えました。顔見知りが増えること自体は小さなことかもしれませんが、こういったことの積み重ねが、いざという時に声をかけ合える深いきずなになると考えます。僕らがどんどん働きかけていきたいです」(光石さん)
 
いずれは、生口島を訪れる多くの観光客にも「減災の呼びかけをしていきたい」と言う。
「災害時に一人でも多くの命を救える活動にしていきたい」とひたむきに活動と向き合うメンバーらの想いが多くの人々の心に届くことを願ってやまない。

  • 活発な意見交換が次の工夫につながる